二人の男は、車である山中の湖に来ていた。空には暗雲が垂れ込め、辺りにはやけに湿った空気が流れている。
「もうこの仕事も慣れてしまいましたね」
金髪の方の男が口を開く。
「慣れなきゃやってらんねえよこんな仕事」
サングラスの方の男が物憂げに答えた。
二人が湖に来たのは、敵対組織の組員の死体を捨てるためだった。この組員は二人が所属している暴力団の幹部を撃ったという事で、ずいぶん手酷い暴行を加えられ殺害されていた。
ビニールシートにくるまれた組員の死体を、金髪男が足の方、サングラス男が頭の方を掴んで湖に放り捨てた。死体はすぐに沈んで見えなくなる。
「…終わったな。帰るか」
そうして二人が車に戻ろうとした瞬間、ざぶんという大きな水音が辺りに響いた。
二人が慌てて湖の方を見ると、そこには古代ギリシャ風の恰好をした長髪の美女が水面に立っていた。両手で二人の男らしきものの襟首を掴んでいる。
「あなたたちが落としたのはこの死んでる組員ですか?それともこっちの生きてる組員ですか?」
美女はにこやかに微笑みながら問いかけた。
「う、うわあああ」
あまりの事態に金髪の男は腰を抜かしてしまった。
「てめえら、こんな事してタダで済むと思うなよ」
どういうわけか、組員が生きてる方と死んでる方とで分裂していた。生きてる方の組員が襟首を掴まれながら喚いている。死んでる方は濁った目で虚空を見つめていた。
「どっちもいらねえよ」
サングラスの男が怒鳴りながら答えた。
「そうですか。じゃあ、間をとって生ける屍と化した組員を差し上げましょう」
そう言った美女は、喚いている方の組員を押さえつけながらゆっくり湖中に沈んでいく。その間に、皮膚が醜く腐り落ちた組員が呻き声をあげながら湖の縁から這い出てきた。